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2022.11.12

「は」 俳句の巨人 蛇笏と龍太 

 
生前も死後もつめたき箒の柄    龍太
亡き母の草履いちにち秋の風
落葉踏む足音いづくにもあらず
 
これは龍太が母親の死後に詠んだ句です。
蛇笏と龍太の句には単なる季節の写生だけではなく、人の心根の深いところに触れるものがあります。蛇笏は3人の子を戦争や病気で亡くしていること、また龍太は次女を6才のときに、また長女は56才とはいえ自分より先に病気で亡くしているため、身を切るような悲しみを静かに詠んでいる句が胸に迫ります。
 
抱かれ来て亡き姉の辺に置く林檎  龍太
金魚さはやか葬後雲ゆく子の泉
花影に秋夜目覚める子の遺影
 
龍太の次女は小学校入学の前年の秋に急性小児麻痺で一夜にして息絶えてしまいました。病院から龍太自身が亡き児を抱えて家に戻ると、幼い弟が枕辺に林檎を置いたのでしょう。特に私が心に沁みたのは「金魚さはやか・・・」の句です。
 
おしなべて子供は金魚が好きです。当時の飯田家に金魚鉢があったのか、はたまた庭の泉水や裏手の池に金魚がいたのか分かりませんが、亡き児が興味深くのぞき見て日々愛でていた金魚が変わらずに泳ぐ水面に空を行く雲が映っている。それだけの句ですが大切な者を失った悲しみがひしひしと伝わってきます。
 
そういう背景に想いをいたすと「どの子にも涼しく風の吹く日かな」という龍太の代表句もまた違った味わいができると思いました。
 
写真はすべて山廬で撮影させていただいたものです。龍太の箒づくりは名人級だったようです。裏手の池には金魚はおらず鯉が悠々と泳いでいました。